卒業研究

美術教育における鑑賞授業の展開方法-比較鑑賞の可能性―


●研究目的・研究方法について

中学校・高等学校での美術の「鑑賞」の授業を受けていて、集中している生徒とそうではない生徒がいることを感じた。そこで,「鑑賞」の授業においてどんな授業ならば対話がはかどり、意欲的に「鑑賞」活動を進められるだろうと考えることがあり、美術教育における「鑑賞」授業の展開方法として「比較」することで考えを持ちやすくなること主軸に、様々な場面においての「比較法」の有用性や可能性や適切な時期・場面・題材を研究していきたいと考えてのもと研究を進めた

 

●実践「比較鑑賞」

令和元年9月2日に実施された教育実習の中で、「比較鑑賞」の授業を行った。

浮世絵の特徴や良さを「比較」する鑑賞形態の基,作品をみる力を育み,浮世絵の特徴を生かしながら自身の顔を浮世絵風に描いていくという内容だ。

作品の魅力を見出すための一つの契機・・・比較鑑賞

浮世絵+浮世絵

風景画+人物画

浮世絵+油彩

風景画+風景画


♦比較鑑賞について

(1)鑑賞のメリット

比較鑑賞の方法を実践した。ここで得られたのは3つの見る姿勢の変化だ。1つ目は,2つの作品を見比べることで作品の見るポイントが明確化されることだ。比べて,違いを発見する形式上,見てほしい箇所を絞ることができ鑑賞活動をスムーズに行うことができる。ワークシートにおける作品の特徴や表現方法への気づきが増加。約9割の生徒が作品の特徴を7つ以上見つけることができていた。2つ目は,活動内での対話の具体化・円滑化だ。作品を指し示しながら発言できることと自分の意見の根拠がもう一方の作品から得ることができるからだろう。実際に班での話し合いの時間は活発的に話し合いが行われているところがほとんどで私語はあまり聞かなかった。内容についてもそれぞれが意見を持てていたし,班内で新しい発見があればそれについても話し合っていて効果的に班活動を行うための起点になったと考えられる。3つ目は,相違点や共通点の発見だ。これは,鑑賞において作品を見た自分の考えを述べることの根拠に据えやすい。相違点や共通点を探すことで作品の見方の幅を増やすことや,他の作品と比べたらどうなのかといった意識の獲得にもつながってくるのではと考えられる。

 

(2)比較鑑賞を行う適切なタイミング

比較鑑賞の大きなメリットは鑑賞授業をわかりやすく考えられるようになることだと考える。また,考える幅を制限する性質上,まだ,作品をみて鑑賞をするという展開をスムーズにできない学年が好ましい。そこで,進めたいのが小学校第4学年から中学校第1学年においての活用だ。小学校中,高学年においては,だんだん考えて自分の意見をしっかり持つことができるようになってくる段階である。ここで,作品を見る方法として比較鑑賞を用いれば小学校の段階でも鑑賞授業を行いやすくできるのではと考える。まずは簡単な間違い探しのような要領で作品を見る機会を作れば今後の作品理解・鑑賞授業での見るポイントを見つける力が付きやすいと考えられる。中学校第1学年においては,鑑賞授業が本格的に始まるということもあり,作品の見方を獲得するという初期段階において有用だと考える。逆に中学校第2学年以降は指導要領にもある通り,生徒自身の自由な考え方や発想力・想像力・表現力が求められるようになってくる。この段階においては,考えの幅を制限してしまう比較鑑賞は不向きではないかと考える。もちろん難易度の高い鑑賞の授業を行う場合は,わかりやすくする手段として比較鑑賞を活用する術も考えられる。

 

♦結果

本実践を通して比較を用いた授業展開とその効果について考えることができた。浮世絵の作品同士であったり浮世絵と油絵であったりの比較が本当に適切であったかは必ずしも正解とはいえず,まだまだ見せ方の工夫の余地はあると考える。比較鑑賞においては,適切に扱えば有用性は高く実践の幅も広がると考える。