卒業研究
鑑賞教育を活かした美術教育−対話型・参加型鑑賞法と参考作品選定について−
目次
◆はじめに
1. 研究テーマの説明、動機と目的
2. 研究の方法
◆第Ⅰ部 心理学の観点から見る鑑賞活動
1. 学習意欲に関わる心理的要因
①経営心理学・基礎心理学における動機づけ
②階層性理論と情意的・認知的動機づけ
2. 美術科教育における動機づけ
3. 動機づけ研究の展開
(参考文献)
市川伸一『学ぶ意欲の心理学』PHP研究所, 2001
北尾倫彦『自己教育の心理学』有斐閣
神吉脩『だれでもできる中学美術鑑賞の授業』明治図書出版,1999
◆第Ⅱ部 学校の美術教育で美術館を活用する指導について
1. 美術科教育における鑑賞活動
2. 美術館での参加型・対話型鑑賞法
3. アレナスの対話型鑑賞法から考える対話中心の鑑賞法
4. パーソンズの段階的分類
(主な参考文献)
市川伸一『学ぶ意欲の心理学』PHP研究所,2001
神吉脩『だれでもできる中学美術鑑賞の授業』明治図書出版,1999
上野行一『まなざしの共有 アメリア・アレナスの鑑賞教育に学ぶ』淡交社,2001
◆第Ⅲ部 鑑賞活動を取り入れた活動/教育実習実践
1. 奈良市内A中学校 教育実習概要
2. 実践「アートなポスターの中に入ろう」
①題材について
②授業概要
(1)制作前鑑賞
(2)ワークシート活動
(3)撮影
(4)制作
③考察
(1)色の工夫
(2)配置と写真の切り方の工夫
④作品事例
⑤まとめ
《参考資料・学習指導案》
(文献)
市川伸一『学ぶ意欲の心理学』PHP研究所,2001
北尾倫彦『自己教育の心理学』有斐閣, 1994
◆第Ⅳ部 題材実践/鑑賞活動を取り入れた制作活動の実践
1. 教職実践演習模擬授業
①内容
②結果
③考察
2. 教職実践演習模擬授業を改善した模擬授業
①内容
②作品事例
③考察
3.まとめ
(参考文献)
北尾倫彦『自己教育の心理学』有斐閣, 1994
◆おわりに
◆研究テーマについて
研究テーマは、「鑑賞活動を活かした美術教育」である。本論文では、筆者が美術館やギャラリー(以下、美術館)の教育普及活動・ワークショップ(以下、ワークショップ)でサポートスタッフを務めた経験から鑑賞活動に表現活動への意欲づけ効果があると考え、その裏付けと具体的な教育活動案を提案することを目的としている
◆学校の美術教育で美術館を活用する指導について
美術科は、表現と鑑賞という二つの領域があり、教科書の内容の過半数を表現領域が占めていることからも伺えるように、鑑賞領域は特に学校教育において発展の余地のある分野だと考える。1999年(平成10年)に告示された学習指導要領で、小学校では「地域の美術館などを利用すること」、中学校では「美術館・博物館等の施設や文化財などを積極的に活用するようにすること」が明記され、初めて美術館・博物館を使った鑑賞教育の指針が示されたことを上野行一は指摘している①。また、博物館法第二条にあるように博物館とは、保管と展示の他に「教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業」を行うものである②。教育的配慮の十分な館とそうでない館があり、実際に活用して定番化させるには何度も試行錯誤を重ねる必要があると考えられる。このような美術館の教育的取り組みの中から、対話型鑑賞について考察する。
《対話型鑑賞》
上野行一氏によると、対話型の教育活動は学校の教科学習ではよく使われる方法であり、国語や社会などの授業ではおなじみであるという③。美術科でも対話を通して鑑賞活動をする場面は今までもあったと思うが、特にアメリア・アレナスの鑑賞時の対話法が優れていると上野行一は述べている④。
アレナスは1984〜96年までニューヨーク近代美術館で教育部講師として教育事業に携わり、特に参加者と対話をしながら進めるギャラリー・トークに定評がある人物である。アナレスのギャラリー・トークは、シンプルな発問で観衆の意見を引き出すことで、自分の意見を伝える表現力や観察力や理解力など、美術に直結する技術ではなく生きていく上で広く通用する能力を身につけさせる点で秀でている。自分の意見を伝える鑑賞の仕方について、以下のような思考整理の段階がある。
また、フェルドマンの唱えるこの美術批評段階は神吉脩の美術批評モデルにも通じるものがある。神吉は、問答や討議による鑑賞授業の展開を5つに分けており、①印象②観察③分析④解釈⑤理解となっている。フェルドマンの4段階のうちの「叙述」を、「印象」「観察」に分けた形である⑥。そして鑑賞活動の進め方について作品の情報をどれだけ与えるかということについては、神吉が「ビデオなどで作者の生涯と作品・関連作品を総括的に示すことで、さらに生徒の美的体験が深まり、自分の意見がまとめやすくなる⑤」というのに対し、アレナスは子供に絵の説明のような発言をさせるのではなく自身の主観的な見方を重視させるべきだと述べた。
神吉の方法では授業の最後には絵に関する詳細な情報が伝えられるのに対して、アナレスのギャラリー・トークでは絵に関する真の情報は得られない。アナレスのギャラリー・トークは「美術そのものではなく、美術を通して何かを学ぶ⑦」という美術の教科目標というよりは「生きる力」を育むことを優先させているのである。アナレスの述べるような対話型鑑賞を美術科の授業に取り入れるには、鑑賞活動の最終段階を美術科の学習目標に沿って学べるようにアレンジを加えるか、総合的な学習と連携させて広いテーマで捉えるかなどをし、工夫する必要がある。
註
①上野行一『まなざしの共有 アメリア・アナレスの鑑賞教育に学ぶ』淡交社、2001年、p14.
②大堀哲・水嶋英治編著『博物館学I —博物館概論✳︎博物館史料論−』学文社、2014年、p241.
③ 前掲註1)、p21.
④ 同上、p23.
⑤ Ragans, Rosalind(1988/1995); Art Talk. Glencoe Publishing Company. California., pp32-34.
⑥ 神吉脩『だれでもできる中学美術鑑賞の授業』明治図書出版、1999年、pp10-11.
⑦ 前掲註1)、p42.
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